リゾートについて語るときに我々の語ること

今回ご紹介するのは、山口県、大津島の「小屋場只只」。この奇妙な名前の宿は、1日1組限定という、これまた奇妙なスタイルを取っている。それもそのはず、この宿には客室やパブリックスペースのような概念自体が存在しない。貸し別荘のように、建物をまるごと借り切る事になるのだ。 この宿を有名にしたのは、なんといってもその景観。そして夕日の美しさ。小高い丘の上に建つこの宿からは、遮るものが一切なく、瀬戸内海が一望できる。その海に沈む夕日も非常にダイナミックだ。 元々、宿のオーナーは、ここに宿を作る気はなかったのだそう。この地より見える見事な夕日に感動し、土地を購入しようとしたものの、そこは調整区域で個人の住宅などは建てられない。宿ならば島の発展に寄与するだろうということで許可されたのだという。 どうせこんな僻地に客など来ないだろうという見込み通り、最初の半年ほどは全く客が来ない。それが、雑誌で紹介されたのをきっかけに、一挙に人気の宿となる。 瀬戸内海に浮かぶ大津島は、徳山港から船で40分ほど。徳山港から徒歩で5分ほどの徳山駅には新幹線が停まるので、意外にアクセスがいい。 旅行中、天気に恵まれることが少ない我々。なんとしても瀬戸内海に沈む夕日を見るため、3泊の予約を入れ、気合十分で新幹線に乗り込んだのだった。

新幹線を降り、徳山港にたどり着いた我々。乗り込んだのは、「回天」という小さな船。「回天」は、人間魚雷の回天のこと。大津島は、回天の訓練所となっていた悲しい歴史のある島なのだ。 さぁ出発だ。 長男くんは嬉しそうに海を眺める。船に乗るのは初めてなのだ。 出航してしばらくは、工場を眺めながらの航海。 地図で見るとよくわかるが、このあたりは島に囲まれている。そのためかほとんど波がない。しかし、この日は珍しく海が荒れていたようで、大津島に近づくにつれ、船は大きく揺れる。 いくつかの港を経て、船は終点の馬島港へ。宿のスタッフが桟橋まで迎えにきてくれ、船中の荷物をピックアップしてくれる。いよいよ大津島へ上陸だ。

小屋場只只は、馬島港のちょうど反対側に位置する。とはいえ、車で5分も走れば着いてしまう。 到着したのは、こんな何の変哲もない階段の前。 見上げると少しだけ只只の建物が見える。 階段を登ると、こんな石の門が。これが宿のエントランスなのだ。 中は、1人ずつしか通れない狭い通路になっている。 その先はまたも階段。 突き当りには花が飾られている。 まだまだ登るようだ。

階段を登りきると、ちょうど石門の上に乗ったような形になる。 ここからさらに階段を登ると、やっと宿に到着する。 けっこう登ってきたなぁ。 たどり着いた場所は、ちょうど部屋のテラスに当たる。 のれんをくぐった先に宿への入り口がある。 中に入ると、真ん中にダイニングテーブルが置かれたこんな部屋が。長男君のために、子供用の椅子を用意してくれている。 入ってきたドアの横には、大津島の地図がかけられている。 ここでチェックインの手続きをして、いよいよ部屋へと通される。

さぁ、いよいよ部屋の中へ。入ってすぐ、海の眺めを確認する。 う～ん、ちょっと天気が悪い。でも、天気がよければ下の通りの美しい景色！ 壁に目をやると、なんと暖炉が。冬場には実際に使用するそう。 反対側の壁。ラックには、メッセージ帳や、宿の成り立ちが書かれた冊子が置かれている。 海の眺めに背を向けると、座り心地のよさそうなチェアと、その奥にはソファの置かれたスペースがある。 アンティークのソファが存在感抜群。 ソファの横にはミニキッチン。とはいえ料理する必要もないので、お湯を沸かすぐらいだろう。 冷蔵庫の中身はお酒が少々。島内には商店がほとんどなく、気軽に買い物ができないことを考えると、あまりにも寂しい。スタッフにお願いすると、麦茶を用意してくれた。このあたりは融通が利きやすいようだ。 キッチン横の棚には、緑茶とコーヒーが用意されている。コーヒーは豆のまま置いてあるので、ミルで挽く必要がある。こんな場所だからこそ、のんびりと豆を挽く時間を楽しむのもいいと思う。

続いてベッドルームを見てみよう。ベッドルームは、リビングルームの隣。ただし、テラスにつながる部分はつながっている。 一段高くなった部分に、ベッド(というかマットレス)が並んで置いてある。 反対側の壁には、小さなデスクスペース。 デスクには、CDプレーヤーと、CDがたくさん置かれている。 テラス側にもデスクが。 ここから見る海も美しい。 「からっぽからっぽ なーんもせん」只只での滞在を象徴するような言葉がかけられている。

バスルームはベッドルームの隣。この建物の一番奥にある。 まずは洗面所兼脱衣所、兼トイレ。白を基調とした中に、薄いブルーのタイルが爽やかな印象。 その横にはピカピカのシャワートイレ。傍らにさりげなく置いてあるファンは、夏場は重宝する。ここは天井がガラスで太陽光線がガンガン入ってくるため、かなり暑いのだ。 壁に設置された棚も雰囲気がある。 続いては浴室。ここからもちゃんと海が見える。 広々とした洗い場。真ん中の木の部分は要注意。濡れると非常に滑りやすくなる。 バスタブは低い位置に設置されている。これにはちゃんと狙いがあるようだ。 バスタブに浸かると、この通り。風呂の水と海がつながって見える。この眺めを楽しむために、手前側には木製の背もたれが設置されている。

ベッドルーム奥の廊下にあるこの扉…。 階段の上には、雑誌や写真集が置いてある。雑誌は、只只が紹介されているものばかり。 扉を開けると、外へ出てしまった。 この階段を登っていくと…。 大理石をくり抜いて作った五右衛門風呂。今はお湯が入っていないが、スタッフに言えばセッティングしてくれる。 この五右衛門風呂からも海が見えるが、夜中に星を見上げながら入るのが一番よさそう。残念ながら、我々の滞在中は夜中の天気が悪く、星を見る事ができなかった。天気がよければ、必ず流れ星を見ることができるほどの美しい星空が楽しめるらしい。 階段の方を振り返ると、離れの茶小屋がある。 ここは五右衛門風呂のための脱衣所として使用される。宿泊人数が多い場合は、ふとんを敷いてもらうこともできるようだ。 小屋横の扉を開けると、ここにもトイレが。 小屋の中はこんな感じ。奥に4人ほど先客がいらっしゃいますね…。 このへんは脱衣所として使用する時に便利そうだ。 野趣あふれる趣の五右衛門風呂。ただ、野趣あふれすぎて虫が苦手な人は気になるかもしれない。只只の周辺はジャングルのような森が広がっていて、大小様々な虫がいるのだ。爬虫類的なものもいるはずなので、夜中に入るのはちょっと勇気がいるかもしれない。

絶景が臨める只只のテラス。下記写真右側の窓が引き戸になっており、部屋からテラスに出ることができる。 テラスからの眺めはこの通り。 晴れた日は、太陽の光が海面に反射して、キラキラと輝いて見える。ただただ、この海を見ているだけで時間が過ぎていく。 左側に目をやると、到着時に登ってきた階段と、ダイニングルームが見える。スタッフは、客室の中が見える所には入ってこないので、下がコンクリの部分にしか出現しない。 スタッフはプライベートスペースに入ってこない事では徹底している。アメニティの補充を依頼した時ですら、部屋に入って来ずに、入り口で手渡しされたほど。 椅子の先にある木の台は、朝食用のテーブル。我々は使用しなかったが、宿泊者が2人の時に使用するようだ。ちょうどテラスの縁に座り、足を空中にぶら下げて食べるらしい。 ある日の夕方。厚い雲にぽっかりと空いた穴から、光が差し込む。宇宙人でも降りてきそうな不思議な空だった。

小屋場只只での食事は、半パブリックスペースのダイニングルームで提供される。チェックインの時に少しお見せしたが、詳しく紹介しようと思う。 ここの窓は、全て開け放つ事ができる。海からの心地いい風が入ってきて、非常に気分がいい。少々暑くても、エアコンの効いた部屋にいるより心地よいので、日中ここで過ごす時間が多かったように思う。 壁には針金で描かれた大津島の地図。そして巨大な壷。 アンティークの時計と只只を象徴するかのようなオブジェ。 部屋の奥には薪を使う竈。ご飯もバーベキューも、ここでスタッフが調理してくれる。煙がかなり出るのが難点だが、おこげつきのご飯やじっくり焼かれた新鮮な魚介は最高だ。 雰囲気のある三輪車。どこを見てもいちいち絵になる。 この絶景を眺めながらの食事は最高。 食事は、和食、バーベキュー、イタリアンと多彩で、どれもおいしい。特に、焼きおにぎりのような素朴なメニューが驚くほどのうまさ。デザートの玄米アイスも最高だった。 連泊の場合はランチも作ってくれる。大津島にはほとんど飲食店がないので、宿の外で食べる事はあまり考えない方がよさそうだ。